日本刀鑑定の歌

​寛永頃の歌ですが、鑑定のポイントがわかりやすくまとまっています。

歴史公論 復興の日本刀號(昭和10年)より。

一、大國にまさる日本の鍛冶なれば 剣を直て太刀にこそすれ

一、専らに古新の見分先ずべし 作に心をつけはまきれん

一、刀數見てこそあかれこうをつみ 書物はかりをもちゆべからず

一、刀數見ても習をゑぬ人は 水にゑをかくごとく成るべし

 

大和國

一、小からすの作と聞きし天國は 後の世までも名は残りけり

一、棟薄く鎬高くて中へよせ 歸りつまるはやまとものなり

一、柾めにて板目に見ゆる重弘は 煑あさやかに姿あらはす

一、すなかしの有て板めに見へけるは 千手一流歸りこそあれ

一、すいしやうの肌ゑに似たる當摩かな 煑濃やかに色ぞ有けり

一、ほし煑に刃をかわす二おもて まぎれはあらし包永の事

一、煑希にはきかけましる貞眞は鎬高くて歸りすくなし

一、初心にて紛るゝ作は則長よ 當摩に似たる地はたなりけり

一、とり分て柾めの肌をあらはすは 大利(大和か)保昌國光ぞかし

一、世の中に地肌あらはす作々は 大和瀧銘出羽の舞草

 

山城國

一、しほあひの底光してしん成は 三條小鍛冶宗近としれ

一、切物は替りはあらし宗近に ひかりは親に薄き吉家

一、菊を銘に打しは後鳥羽院ぞかし 刀の作は國永としれ

一、亂つゝ刃しつみてはれやかに のたれ細きは來の國行

一、底柾め上にあらはす地肌かな 棟とひ刃二字の國俊

一、さか足に煮のましはる二字なれば 直成刃をとりこそすれ

一、花やかに煑の勝て幡廣く のたれ細きは來國次

一、木の板をさきて見へける光包は 歸りはふかし煑ぞすくるゝ

一、津の國の中島來は幡廣く のたれ亂に煑ぞ勝るゝ

一、ほり物をゑてやほりけん信國は 重厚めにしみぞ有けり

一、幡廣く刃さかひに煑有て 歸り丸くは信國としれ

一、亂には二つも三つもならびつゝ 足崎丸く有は信國

一、地の色のすます庵の淺くして 煑うきけるは信國としれ

一、ぬれ色に肌をあらはす粟田口 ほうしはとがり底はすみけり

一、小ふくらに二重刃のそひけるは 粟田口にてうてる藤林

一、歸りなく焼つめたりし作々は 粟田口にてまたは國清

一、板めにて柾目肌とも見えざるは 藤馬則國來の國行

一、靑色に地色すみける國吉の 歸りつまりてふくらすくるゝ

一、もゑ出る刃ににほひ吉光の 鍛のかわるふしぎなりけり

一、肌つまり煑そ勝る京物は 出來次第に山々としれ

 

相模國鎌倉

一、新藤五肌の心は替りたり 歸りはふかし煑ぞ勝るゝ

一、はきかけにのたれ亂に國泰は はかたへよりて歸る末々

一、幡廣く重薄めに煑あらば 鎌倉物とやがてしるべし

一、切物の姿はたらきゑたりしと 大進坊に刀まれなり

一、刃ふり餘りくるわす煑有て さかり過めにみゆる行光

一、山ふきのにほひましゑる正宗は 風吹きちらす靑そらの雪

一、色々に刃をかわすまさむねは にほひ勝てたぐいもそなき

一、煑にほひ村そなかりし貞宗は 刃せわしく煑ぞすくるゝ

一、玉焼にとび焼ましる助眞は 煑にかゑりのふかく有けり

一、ひたつらに棟をは指て焼けるは 長谷部廣光秋廣ぞかし

一、末々は煑もうきけりひたつらに 地さかいきつく見ゆる正廣

 

出羽

一、きり物のこせりみしかきふり有ば 出羽の寶壽と頓て知べし

 

越中

一、あざやかに煑ににほひの義弘は 呉服似りに地はだあらはす

一、はきかけの煑猶多し眞景は 師の則重に地はだ似せけり

一、地の色の黑みはきかけ藤島の しかく刃はまぎれ有まじ

 

備前國

一、煑有てにほひ地肌のしん成は 備前友成古作なりけり

一、小亂に足先ふかく煑ありて 湯ばしり有は備前正恒

一、花やかに丁子をまぜてさか足に しのき廣なる備前包平

一、うつり有腰より下の反高く 歸りすくなき備前物かな

一、あざやかに刃をみだす則宗は はづれはづれに煑ぞ有けり

一、大亂にほひばかりの助宗は 村はれやかに幅の廣さよ

一、足先のあかり丁子の刃にて あらはれ見へば備前吉平

一、刃先きゆるやうにて靑みしは 備前吉房まぎれ有まじ

一、すみいりては先へかゝる色有は 備前三郎國宗としれ

一、靑色にするどく見ゆる守家の ひやうたん丁子肌をあらはす

一、眞守の刃を見れははれやかに 亂大きに廣きたいはい

一、腰しまり丁子刃にかけりつゝ 櫻の花に光忠の色

一、樋はせはく地肌濃かに薄めにて 丁子遠きは備前長光

一、國形きひよわくみゆるさんこつか 色よりみゆる備前景光

一、地符有てたいはい廣き兼光は 煑すくなきぞしるし成けり

一、花やかにのたれ多てかけりつゝ 煑すぐるるは長義なりけり

一、元重はさか足いりて亂つゝ 所々に煑ぞ有けり

一、はなつらに丁子をませる備前もの 煑有作は雲次雲生

一、小亂にうつりはきかけ煑有て 備前はた有吉井物かな

一、幅廣く煑にうつりのそひけるは 備前長舟小反ものかな

 

備中國

一、すみいりて幅こそつまれ成色の 煑濃かに靑江なりけり

一、濃やかにすゝとき色の有ならば 靑江とやがて心付べし

一、杉なりに刃焼たるかた山は 所々に棟もやけけり

一、薄雪のふりたる色のかた山は きわたちみゆる末々の作

 

備後國

一、たひていの大和形きに煑こせり 歸りふかきは三原なりけり

一、古三原は煑に匂ひを打まぜて 板めのはたをうへにあらはす

一、棟やきて煑白砂の關形き しのき高きは木梨物かな

 

伯耆國

一、さかり過薄むらさきに肌有は 伯耆安綱一るひとしれ

一、はれやかにするどく見へて煑深く 鎬廣なる大原眞守

一、小亂に足をそろゆる道永に まぎるゝ刃關のまご六

 

石見國

一、しほあひの上作形き直繩の にほひふかきは左にぞ紛るゝ

一、幅廣く鎬高くてはこ屋きた のたれ多きはいつわ物かな

 

但馬國

一、長刀を得てや打けん但馬物 さきはあまめに丁子ませけり

 

周防國

一、棟やきてしほあひ浅き地肌にて やきは靑きは二王一るひ

 

筑後國

一、三池樋の底は浅くて口廣く 地肌しらけて姿うつくし

一、湯はしりに玉も有べし棟やきて 細すく刃筑後物かな

 

筑前國

一、濃やかに鍛ひをねらす古左もじは 歸りはとかり底はすみけり

一、すみいりてにほひばかりは安吉の くもりなきよのあかつきの空

一、うきやかに肌に村なく煑有て ほうしすけなく歸る國弘

 

肥後國

一、肌詰り煑濃にて京かたき はきかけ有は延壽一るひ

一、はゝき下二三のもしを打けるは肥後の延壽國村としれ

一、靑色に煑濃やかにひそかにて ふしゝゝまちる延壽成けり

一、末々は地はだしらけて煑荒く あまみさしける菊地物かな

 

豊後國

一、焼をとしふかく有けり行平は きり物有て猶も紛れず

一、足ふかく刀は亂脇ざしは すくなる刃多行平

一、ぬれ色に鎬へかゝる地符有は 記の正恒ときを付べし

 

薩摩國

一、くもの井を引きちらしけん波平 底は靑みて肌はうきけり

 

美濃國

一、亂るゝものたれそ多き煑有て 鍛をみする金重なりけり

一、ねりきぬに地を鍛ける志津なれば にゑに匂いは猶も有けり

一、煑にほひ地はた濃かの志津なれば さだまる刃有とこそしれ

一、細直に地肌濃かに煑しろく 歸りきわたつ善定としれ

一、はれやかに地ちかくみゆる地肌かな 煑あざやかに關の手しゆるし

一、煑匂ひ地はた濃かの關のかね かたく鍛とやがてしるべし

一、小丁子の有て備前に紛るゝは 關の兼定にゑぞうきけり

一、かね色のかたくきわたちみゆるこそ 大和てんかひ關の末々

一、煑匂ひ地符や玉やきぬれ光 歸りきつかけ姿はたらく

一、國々の鍛冶の手ふりか水故か 末々までもをなじ色かな

 

一、火心と刀の位よくしらば あたらずとても目利也けり

一、上作の位は煑と匂ひなり 此なき作は下作なりけり

一、下作にも煑と匂ひはしぜん有 にゑも匂ひも黑みこそすれ

一、よき物は刃は白く煑有て にほひ勝て地かねつまれり

一、あしきもの地かねにひかりあらずして 刃も煑もかわきこそすれ

一、上作の銘有ながらすりあげて みいれ浅きはふしんなりけり

一、銘有て出来中心の相違せば 打つき物とやかて知べし

一、はゝき下さび色有はふしんせよ わきざしなどは次てこそ有

一、無銘物中心さきをばすりなをし 身のにし作にまぎらかす也

一、其見付錦倉ものとうちみへて 玉にはたなき駿河物かな

一、すく刃新藤五にもよく似たり または信國宇多にこそ似る

一、目利物心をしづめつよくみよ 作をあまたに指てくやしき

 

寛永十五

寅正月 吉日

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